海外の市場で気に入った品を手に取り、値切るための英語を思い出そうとして、口が止まります。
値札が付いている品もあれば、数字だけが手書きで書かれた札が下がっている品もあります。
その数字が最終の金額なのか、聞けば動く仮の数字なのかが分かりません。
頭の中には haggle という単語だけが浮かんでいます。
けれども、その単語を店主に向かって言っていいのかどうかを決めきれません。
隣の客は短い一言で店主を笑わせ、札の数字より低い金額を払って出ていきました。
何を言ったのかは聞き取れませんでした。
自分の番が来て、How much is it? とだけ言います。
返ってきた数字は札と同じで、そこから会話が続きません。
「高い」と言えばいいのか、「もっと安く」と言えばいいのかで迷います。
expensive という語を出すと、相手の品物を否定したように聞こえる気がします。
cheap という語を出すのは、もっと危ない気がします。
結局、言われた金額をそのまま払って店を出ます。
通りを2軒進んだところで、同じ品が別の数字で並んでいるのを見つけます。
そこでようやく、さっきの数字が動く数字だったと気づきます。
値切る英語でつまずく理由は、単語を知らないからではありません。
日本語の「値切る」という1語が、英語では「誰が値段を下げるのか」で別の動詞に割れているからです。
こちらが下げてくれと頼むときの動詞と、店が下げると言うときの動詞は、英語では同じ語になりません。
その割れ目は、辞書を引けば語義の数として目に見える形で出てきます。
この記事では Cambridge Dictionary の英語辞典で15語を実際に引いて、語義がいくつ並ぶかを1語ずつ数えました。
数えた語義は合計180個でした。
あわせて、英国の法令データベース legislation.gov.uk にある The Price Marking Order 2004、英国政府 GOV.UK の「Price Marking Order 2004: government guidance」と「Tax on shopping and services: Tax-free shopping」、国税庁のタックスアンサー No.6902「総額表示」の義務付け、観光庁の消費税免税店サイト、米連邦取引委員会(FTC)の「The Rule on Unfair or Deceptive Fees: Frequently Asked Questions」、米シアトルの Pike Place Market Preservation and Development Authority が出している「2025/2026 Daystall Rules & Regulations」を読みました。
公的資料と公式規約は7ページで、どれも2026年9月26日に実際に開いて原文から数字を取りました。
相場や割引率の推測は1行も書いていません。
出典として並べたのは、この記事を書きながら実際に開けたページだけです。
値切る英語は「Can you do any better?」の1文|haggleより先に決まる結論
札の前で立ち止まって、最初に口から出したい文は1つだけです。
Can you do any better?
直訳すると「もう少しどうにかなりませんか」で、日本語の「値切る」にいちばん近い温度の1文です。
この文が強いのは、3つのことを言わずに済ませているからです。
金額を自分から言っていません。
品物が高いとも言っていません。
品物の質を落として評価してもいません。
値段を下げる主語を、こちらではなく相手に置いているのがこの文の要です。
下げるかどうかを決めるのは店側なので、その判断を相手に返す形にすると角が立ちません。
同じ働きをする文が、あと2つあります。
Is there any discount on this?
「これに何か割引はありますか」で、discount を名詞で使った形です。
Cambridge Dictionary の discount の名詞の1つ目の語義は「a reduction in the usual price」で、いつもの値段からの引き下げを指します。
学割・シニア割・まとめ買いのように、店の側にすでに用意がある引き下げを掘り出す文です。
If I take two, can you knock something off?
「2つ買ったら少し引いてもらえますか」で、knock off を動詞句で使った形です。
knock off には「to take a particular amount away from a price」という語義があり、値段から一定額を引く動作をそのまま指します。
条件(2つ買う)を先に差し出しているので、こちらだけが得をする要求になりません。
断られたときの引き際も、先に決めておきます。
OK, I’ll think about it. Thank you.
値切る英語の主語は相手で、こちらは条件と引き際だけを用意します。
この4文が、この記事のいちばん短い答えです。
そして、この4文で足りるのに口が止まる理由が、次の章の辞書の数字にあります。
金額そのものを聞く言い方と、How much? のあとに続く言葉は、値段の英語でcheapが褒め言葉にならない理由とon saleの2つの意味で数えています。↓

値切る英語で口が止まる理由|Cambridge Dictionaryで数えた15語の語義
Cambridge Dictionary で値段の交渉にかかわる語を15語引いて、語義の数を1語ずつ数えました。
数え方は、同じ見出し語のページに並ぶ英英辞典・米語辞典・ビジネス辞典の3つの欄の語義をすべて足す方式です。
合計は180個でした。
いちばん多かったのは cheap で、語義は26個ありました。
次が offer の25個、sale の21個、deal の15個、discount の14個です。
bargain が13個、price と knock off がそれぞれ12個、negotiate が11個と続きます。
cash が8個、reduce が6個、afford と refund がそれぞれ5個です。
そして、いちばん少なかったのが expensive の3個でした。
その次に少ないのが haggle の4個です。
「値切る」そのものを指す haggle は、15語の中で下から2番目に語義が少ない語でした。
語義が少ないということは、意味の幅が狭く、取り違えの余地も少ないということです。
つまり haggle は、知らないから使えない語ではありません。
場面が狭すぎて、使える場所が限られているだけの語です。
逆に、語義が26個もある cheap は、どの意味で受け取られるかが相手任せになります。
語義25個の offer も、名詞で「申し出」と「売り出し」の両方に振れます。
語義21個の sale は「販売」と「セール」に割れ、値札の on sale が国によって別の意味になります。
値切る場面で口が止まるのは、語義の多い語ばかりを先に思い出すからです。
語義の少ない語だけで文を組めば、誤解の余地はかなり減ります。
その候補が、expensive・haggle・afford・refund の4語です。
この4語の使いどころを、次の2つの章で語義の中身まで割っていきます。
値切る英語の軸になる3語|haggle・bargain・negotiateの語義の数の違い
日本語の「値切る」を英語にするとき、辞書が最初に返してくるのが haggle と bargain と negotiate の3語です。
語義の数は、haggle が4個、bargain が13個、negotiate が11個でした。
3語で28個あり、そのうち値段の交渉を指す語義は限られています。
haggle の英英辞典の語義は1個だけです。
原文は「to attempt to decide on a price or conditions that are acceptable to the person selling the goods and the person buying them, usually by arguing」です。
売り手と買い手の両方が受け入れられる値段か条件を決めようとすること、と定義されています。
末尾に usually by arguing と書き添えてあるのが、haggle という語の性格です。
言い合いになることを前提にした語なので、静かな店内で使うと場面から浮きます。
Cambridge Dictionary の例文も、その前提をそのまま示しています。
It’s traditional that you haggle over the price of things in the market.
市場では値段を haggle するのが習わしだ、という文です。
ビジネス辞典の側には語義が2個あり、1つ目が「to argue about the price of something in an attempt to make the seller reduce it」です。
売り手に下げさせようとして値段を言い合う、という定義で、こちらが「値切る」の芯に近い形です。
2つ目は「to argue about the details of something」で、値段に限らず細部でもめることを指します。
haggle は前置詞の型も決まっていて、haggle over・haggle about・haggle with・haggle for の4つが例文に並びます。
値段には over か about、相手には with、欲しい条件には for が付きます。
bargain は事情が違い、語義が13個に散らばります。
英英辞典では名詞2個・動詞1個・形容詞1個の4個に割れていました。
名詞の1つ目は「something on sale at a lower price than its true value」で、本来の価値より安く売られている品を指します。
日本語でいう「掘り出し物」で、これは行為ではなく品物の呼び名です。
名詞の2つ目は「an agreement between two people or groups in which each promises to do something in exchange for something else」で、取り決めそのものを指します。
動詞の語義が「to try to make someone agree to give you something that is better for you, such as a better price or better working conditions」で、ここだけが「交渉する」です。
形容詞の語義は「on sale for a low price」で、bargain price のように名詞の前に付きます。
bargain は名詞で使うと「安い買い物」、動詞で使って初めて「値切る」になります。
That’s a bargain. と言うと、値切りの申し出ではなく「安いですね」という感想になります。
米語辞典の例文は、動詞の使い方をそのまま示しています。
You can usually bargain with antique dealers.
骨董の業者とはだいたい交渉できる、という文です。
ビジネス辞典の bargain には、英国のロンドン証券取引所での株の売買1件を指す語義まで入っています。
negotiate は語義11個で、英英辞典の側に4個ありました。
1つ目が「to have formal discussions with someone in order to reach an agreement with them」です。
formal discussions という語が入っているので、正式な話し合いの場を指します。
2つ目は「to manage to travel along a difficult route」で、値段とは何の関係もありません。
The only way to negotiate the muddy hillside is on foot.
ぬかるんだ斜面を通り抜けるには歩くしかない、という文で、ここでの negotiate は「通過する」です。
3つ目は「to deal with something difficult」、4つ目は金融の文書を現金に換える意味です。
negotiate は屋台には重すぎる語で、契約・賃金・条件の場で使う語です。
3語の住み分けは、haggle が市場、bargain が業者との掛け合い、negotiate が契約の場と覚えると外しません。
値切る英語のdiscountとknock off|語義14個と12個で分かれる値引きの主語
haggle も bargain も、主語はこちら側です。
一方で、店の側が値段を下げる動作を指す語が別にあります。
discount と knock off の2つで、語義はそれぞれ14個と12個でした。
discount の英英辞典の語義は4個で、名詞1個・動詞2個・形容詞1個に割れます。
名詞は「a reduction in the usual price」です。
動詞の1つ目は「to decide that something or someone is not worth considering or giving attention」で、値段とは関係がありません。
こちらは「軽く見る」「考慮に入れない」という意味の動詞です。
Cambridge Dictionary の例文も、その意味で並んでいます。
You shouldn’t discount the possibility of him coming back.
彼が戻ってくる可能性を切り捨てるべきではない、という文です。
discount を動詞で使うと「値引きする」と「無視する」の2つに割れます。
動詞の2つ目が「to reduce the price of something」で、こちらが値引きの意味です。
形容詞は「sold at a reduced price, or selling things at a reduced price」で、discount store のように使います。
語義が2つに割れる動詞を避けるなら、名詞の discount だけで組むのが安全です。
辞書の例文には、具体的な率が入ったものが並んでいます。
They offer a ten percent discount on travel for students.
学生には移動費を10パーセント引く、という文です。
米語辞典の側にも「Students receive a 10 percent discount.」と「He gets a senior citizen discount at the theater.」が並びます。
どちらも、こちらが交渉して勝ち取った率ではなく、店が先に用意している率です。
だから Is there any discount for students? のように、対象を添えて聞くと当たりが出ます。
knock off は、語義の散らばり方がもっと激しい語です。
英英辞典だけで6個あり、並び順は「仕事を終える」「値段から一定額を引く」「盗む」「さっと作る」「殺す」「性的な意味」でした。
値段の意味は2番目で、1番目は仕事を切り上げる意味です。
The manager knocked $5 off because it was damaged.
傷があったので店長が5ドル引いた、という文です。
米語辞典にも「The manager knocked off ten bucks because the dress had a few buttons missing.」があり、ボタンが取れていたので10ドル引いています。
2つの例文に共通しているのは、値段を引く主語が the manager である点です。
knock offは店が引く動詞なので、こちらは Can you knock something off? と相手を主語にして頼みます。
ビジネス辞典の側には「to produce a cheap copy of someone else’s product, usually illegally」という語義もあります。
他社の商品の安い複製を作る、という意味で、名詞の knock-off が「偽物」を指すのはここから来ています。
knock-off と knock off は、ハイフン1本で「偽物」と「値引き」に分かれます。
市場で knock-off という名詞が飛んできたら、それは値段の話ではなく品物の出どころの話です。
値切る英語が空振りする英国の店頭|Price Marking Orderが決める確定価格
語を覚えても、そもそも値段が動かない売り場があります。
英国の店頭がその代表で、理由は法令の側にあります。
英国の法令データベース legislation.gov.uk に載っている The Price Marking Order 2004 が、値札の中身を定義しています。
第1条の定義で、selling price は「the final price to be paid for a unit of a product, or a given quantity of a product, including VAT and all other taxes (but excluding the amount of any deposit)」とされています。
1単位あるいは一定量について最終的に支払う価格で、VAT とその他すべての税を含み、預り金だけを除く、という定義です。
英国の値札は、定義そのものに final price という語が入っています。
第4条は、消費者に売る、あるいは売る可能性があると示した商品について、この selling price を表示する義務を事業者に課しています。
量り売りと広告は、この義務の例外です。
第5条は、量り売りの商品や数量表示が必要な商品について、単位あたりの価格の表示を求めています。
第7条は表示の仕方を決めていて、価格の表示は「unambiguous, easily identifiable, clearly legible」でなければなりません。
あいまいでなく、見つけやすく、はっきり読めること、という3つです。
さらに「a font which is clear and of reasonable size」、つまり明瞭で相応の大きさの書体を使うことも求められます。
置く場所も決まっていて、消費者が店員に尋ねなくても価格を確かめられる位置でなければなりません。
値下げの扱いは第9条です。
複数の商品に一律の値下げをかけるとき、1点ずつ値札を付け替えるのが reasonably practicable でない場合に限り、まとめて掲示する方法が認められます。
英国政府 GOV.UK の解説は、この条項について「high threshold, not to be relied upon where individual repricing is merely inconvenient」と釘を刺しています。
条件は厳しく、1点ずつの付け替えが単に面倒だという程度では使えない、という意味です。
違反したときの扱いも、同じ解説が示します。
Prices Act 1974 のもとで刑事罰の対象となり、罰金は「a fine of an unlimited amount」、つまり上限のない金額です。
加えて Digital Markets, Competition and Consumers Act による民事の執行があり、こちらは30万ポンドか全世界売上高の10パーセントのいずれか高い方が上限です。
値札が最終価格だと法で決まっている国では、店頭で値切る英語は空振りします。
英国で値段が動くのは、この義務の例外にあたる場所です。
具体的には、量り売りの台、車や家具のような個人売買、そして市場の屋台です。
同じ国の中でも、売り場の種類で値切る英語の当たり外れが変わります。
値切る英語が届かない日本と英国の売り場|総額表示と免税の線引き
日本の値札にも、英国と似た決まりがあります。
ただし決めているのは価格の水準ではなく、税を含めて書くかどうかです。
国税庁が示す11,000円という書き方
国税庁のタックスアンサー No.6902「総額表示」の義務付けは、令和8年4月1日現在の法令等にもとづく内容です。
そこでの定義は「事業者が消費者に対してあらかじめ価格を表示する場合に、消費税額を含めた価格(税込価格)を表示することを義務付けるもの」です。
カッコの中の消費税額には、地方消費税額も含まれます。
根拠となる条文は消費税法第63条です。
標準税率10パーセントが適用される例として、国税庁は7つの書き方を並べています。
11,000円、11,000円(税込)、11,000円(税抜価格10,000円)、11,000円(うち消費税額等1,000円)、10,000円(税込価格11,000円)などです。
どの書き方でも、いちばん目立つ数字が税込の総額になるよう設計されています。
ここに1つだけ抜け道があります。
同じページに「口頭で伝えるような価格は、総額表示義務の対象とはなりません」と明示されています。
つまり義務がかかるのは、あらかじめ表示された価格だけです。
表示していない価格、たとえば口頭で伝える見積りは、この義務の外にあります。
日本で値段が動く余地があるのは、まさにこの「表示していない価格」の側です。
観光庁が示す5千円と50万円の線
日本で外国人が金額を下げる正規の道は、値切ることではなく免税です。
観光庁の消費税免税店サイトによれば、ここでいう免税店は消費税法第8条の「輸出物品販売場」を指します。
店舗ごとに、納税地を所轄する税務署長の許可が必要です。
対象者は非居住者で、令和5年4月1日の改正後は本邦入国後6ヶ月未満であることの確認が要ります。
日本国籍を持つ非居住者の場合は、直近の入国日の6ヶ月前の日以降に作られた戸籍の附票の写しか在留証明での確認が必要です。
金額の線は、一般物品と消耗品で書き分けられています。
一般物品は「1人の非居住者に対して同じ店舗における1日の販売合計額が5千円以上」です。
消耗品は「5千円以上、50万円以下の範囲内」で、加えて日本国内で消費されないように指定された方法で包装されている必要があります。
日本で下げられるのは税の側で、本体価格は値札のまま動きません。
だから日本の売り場で使う英語は、値切る文ではなく免税を確かめる文になります。
英国が2021年に取りやめた免税の手続き
この免税という制度は、同じ先進国でも国ごとに生死が分かれています。
英国政府 GOV.UK の「Tax on shopping and services: Tax-free shopping」は、グレートブリテンの扱いをはっきり書いています。
原文は「You can only buy tax-free goods from shops in Great Britain (England, Wales and Scotland) if they’re delivered straight to an address outside the UK」です。
イングランド・ウェールズ・スコットランドの店で免税の品を買えるのは、英国外の住所へ直送してもらう場合だけです。
手荷物で持ち帰る形の免税は、グレートブリテンでは使えません。
背景にあるのが、英国歳入関税庁の Revenue and Customs Brief 21 (2020) です。
この文書の表題そのものが「withdrawal of the VAT Retail Export Scheme and the tax-free shopping concession」で、制度の取りやめを告げています。
取りやめは2021年1月1日からで、EU 離脱の移行期間の終了に合わせた措置です。
北アイルランドだけは扱いが別です。
GOV.UK は、北アイルランドと EU の外に住む人が北アイルランドを訪れた場合などに還付を請求できるとしています。
条件は期限付きで、「You can only get a VAT refund if you take the goods out of Northern Ireland and the EU within 3 months of buying them」です。
購入から3か月以内に、品物を北アイルランドと EU の外へ持ち出す必要があります。
さらに「You will not get a VAT refund if you travel from Northern Ireland straight to Great Britain」という一文もあります。
北アイルランドからそのままグレートブリテンへ移動した場合は還付を受けられません。
日本の側は、前の項で見たとおり5千円という線が生きています。
値切って端数を削るより、5千円の線をまたぐほうが確実に総額が下がります。
この線をまたぐかどうかを店員に確かめる英語が、値切る英語より先に要る文です。
Can I buy this tax-free? や Do I need to spend more to get the tax refund? のように聞きます。
tax free と duty free の違いと、各国の手続きの流れは、免税の英語でtax freeとduty freeのどちらを言うかで公式ページを突き合わせています。↓

値切る英語が届く米国の表示ルール|FTCの16 CFR Part 464が求める総額
米国の値札は、英国とも日本とも作りが違います。
小売の値札に売上税が乗っていないので、レジで数字が増えます。
つまり米国では、値札の数字が最初から確定価格ではありません。
その状態に手を入れたのが、米連邦取引委員会(FTC)の規則です。
規則名は The Rule on Unfair or Deceptive Fees で、条文の場所は 16 CFR Part 464 です。
施行日は2025年5月12日です。
対象は2種類に絞られています。
1つが live-event tickets で、コンサート・スポーツ・音楽・演劇など生の催しのチケットです。
もう1つが short-term lodging で、ホテル・モーテル・バケーションレンタル・民泊が入ります。
FTC の説明は「tell people upfront the total price they will pay」です。
支払う総額を前もって伝えること、という要求です。
total price の中身も定義されています。
原文は「all charges or fees the business knows about and can calculate upfront, including charges or fees for mandatory goods or services people have to buy as part of the same transaction」です。
事業者が把握していて前もって計算できるすべての料金で、同じ取引の中で必ず買わされる物やサービスの料金も含みます。
リゾートフィーや施設利用料を後出しする形が、この規則で正面から禁じられました。
総額から外してよいものは3つだけです。
税と政府に納める費用、配送料、そして任意の付帯サービスの料金です。
ただし、この3つも支払いを求める前に clearly and conspicuously 開示しなければなりません。
はっきりと目立つ形で示すこと、という条件が付いています。
米国の値札は確定価格ではないので、値切る前に総額を確かめる文が先に来ます。
What’s the total with tax? が、その1文です。
ホテルなら Does that rate include all fees? と聞けば、規則が守られているかどうかがその場で分かります。
チケットなら Is that the total price, including fees? です。
総額を先に確かめると、値切る余地があるのかどうかも同時に見えます。
規則の対象外である小売や飲食では、値札プラス売上税が原則です。
値切る英語を出してよい場所|Pike Place Marketの運営規約にある値札の扱い
同じ米国でも、値札の扱いがまるごと違う売り場があります。
市場の露店で、運営規約を読むとその違いが数字ではなく語で出てきます。
米シアトルの Pike Place Market を運営する Pike Place Market Preservation and Development Authority は、露店の規約を毎年出しています。
2025年4月1日に承認された版が「2025/2026 Daystall Rules & Regulations」です。
この規約の Customer Service Standards の章に、値札の扱いがあります。
5番の条文は「Vendors are encouraged to display prices of products offered for sale」です。
売り物の値段を表示することが推奨される、という書き方です。
encouraged であって required ではないので、値札が無くても規約違反になりません。
同じ章の6番と7番は、語が shall に変わります。
6番は「Vendors shall have written refund and exchange policies at their day table」で、返品と交換の方針を書面で台に置く義務です。
7番は「Vendors shall provide a receipt to customers on request」で、求められたら領収書を出す義務です。
値札は推奨で、返品方針と領収書は義務、という差が条文の助動詞にそのまま出ています。
1番の条文は、もっと踏み込んだ書き方をしています。
「to resort to trickery, concealment, artifice, or untruth for the purpose of concealing or misrepresenting, or to conceal or misrepresent the true quality, size, weight, number, volume, or value of produce, goods, wares, or merchandise sold or offered for sale」を禁じる一文です。
品質・大きさ・重さ・個数・量・価値を、ごまかしや隠しごとで偽ることの禁止です。
同じ文の最後は「to resort to any unfair dealing or to cheat any person in any manner whatsoever」で締められています。
12番には、秤の置き方の決まりまであります。
農家は、客が秤をはっきり見られるだけでなく、秤に出た量と価格まで見える位置に置かなければなりません。
値段が目の前で決まる売り場ほど、運営側は見える化の条文を厚くしています。
4番は「All customers are to be treated with courtesy and respect」で、客への礼儀を求めています。
この条文があるので、値切る英語を向けられても売り手が声を荒げる場面はまず起きません。
値札が無い台の前で最初に言うのは、値切る文ではありません。
Is there a price on this?
「これは値段が付いていますか」で、札の有無そのものを聞く文です。
ここで数字が返ってきて初めて、Can you do any better? が意味を持ちます。
場面別の値切る英語|市場・個人売買・ホテルの3つ
売り場が変われば、同じ「値切る」でも文の形が変わります。
語義の数が少ない語を軸にして、3つの場面に割っていきます。
市場の屋台で使う値切る英語
最初は値札の確認からです。
Is there a price on this? で数字を出してもらいます。
数字が出たら Can you do any better? を置きます。
もう一段踏み込むなら What’s your best price on this one? です。
best price という名詞句を使うと、相手は自分で下限を出す形になります。
まとめ買いなら If I take two, can you do a deal? を置きます。
deal は語義15個の語で、英英辞典では名詞4個・動詞3個に割れました。
名詞の deal には取り決めの意味があるので、do a deal で「話をまとめる」になります。
まとめ買いを先に差し出すと、値切りが要求ではなく提案に変わります。
個人売買で使う値切る英語
中古品の個人売買では、金額を自分から出す形が普通です。
Would you consider forty? のように、数字だけを置いて相手の判断を待ちます。
通貨名を付けずに数字だけを言うのは、この場面では失礼になりません。
現金の用意があるなら、それを添えると話が早くなります。
I can pay cash today. が、その一文です。
cash は語義8個の語で、名詞の中心は現金そのものを指します。
Cambridge Dictionary のビジネス辞典には、この場面を丸ごと説明する例文が載っています。
If you’re a cash buyer, haggle with the dealer to get the best price and/or free extras.
現金で買う側なら、業者と掛け合って最良の価格か無料の付属品を引き出せ、という文です。
値段が動かないときは、付属品や送料の側が動くことがあります。
Can you include delivery? のように、金額ではなく中身を増やす方向に振ると通ることがあります。
ホテルのフロントで使う値切る英語
ホテルは、表示価格が法で縛られている場所です。
米国では FTC の規則が総額表示を求めているので、まず総額を確かめます。
Does that rate include all fees? が最初の一文です。
そのうえで値段を動かすなら、部屋の等級を下げる方向に振ります。
Do you have anything cheaper? は、品物ではなく在庫に cheaper を使うので角が立ちません。
泊数で動かすなら Is there a rate for three nights? です。
ホテルで動くのは金額ではなく、部屋の等級と泊数の条件です。
haggle も bargain も、フロントでは使いません。
店に入ってから出るまでの流れと、返品のときの言い方は、買い物の英語で最初の一言と返品のルールをカリフォルニア州民法の原文まで当たって並べています。↓

相手が言ってくる値切る英語|返ってくる文と、聞き取れないときの逃げ方
こちらの1文より、返ってくる文のほうが数が多くなります。
断りの文は、だいたい3つの型に収まります。
1つ目が That’s my best price. です。
「それがこちらの最良の価格です」で、下限を出したという宣言です。
2つ目が I can’t go any lower. で、これ以上は下げられないという意味です。
3つ目が The price is fixed. で、値段が固定されていることを告げています。
fixed が出たら、その売り場はもう値切る英語の外にあります。
受けの文も3つの型に収まります。
1つ目が OK, I’ll do it for you. で、あなたのために下げるという言い方です。
2つ目が For you, special price. で、市場では定番の言い回しです。
3つ目が Make me an offer. で、金額をこちらに出させる形です。
offer は語義25個の語で、15語の中では cheap に次いで2番目に多い語でした。
英英辞典では動詞3個・名詞6個に割れ、ビジネス辞典ではさらに動詞5個・名詞9個に広がります。
Make me an offer. の offer は名詞で、こちらが提示する金額そのものを指します。
ここで数字を出す番が回ってくるので、上限は先に決めておきます。
聞き取れなかったときの逃げ方も、文を1つ用意しておきます。
Sorry, could you write it down?
「すみません、書いてもらえますか」で、数字のやり取りではいちばん確実な逃げ方です。
電卓を出してくる売り手も多く、その場合は画面の数字がそのまま答えになります。
数字だけをもう一度聞くなら Can you say the number again? です。
金額の聞き返しは、語ではなく数字を名指しして頼むと1回で終わります。
引き際の文も、断られる前から口に置いておきます。
I’ll think about it. と言って離れると、背中に別の数字が飛んでくることがあります。
値切る英語でやりがちな取り違え|cheap・bargain・dealの呼び分け
値切る場面でいちばん事故が多いのが、cheap の使い方です。
cheap は語義26個で、15語の中で最も多い語でした。
英英辞典だけで形容詞10個・副詞1個の11個に割れます。
その中に、値段ではなく質を落として評価する語義が入っています。
cheapは品物には使わないのが、値切る英語での鉄則です。
This is cheap. と言うと、安いという意味ではなく安物だという意味で受け取られる余地が残ります。
比較級の cheaper を、品物ではなく在庫に向けて使うなら安全です。
Do you have anything cheaper? は、目の前の品を貶さずに別の選択肢を求める形になります。
次に多いのが bargain の取り違えです。
名詞の bargain は「掘り出し物」なので、That’s a bargain. は値切りの申し出になりません。
値切りたいなら動詞で使い、I’d like to bargain. ではなく Can we talk about the price? のほうが自然に伝わります。
deal も同じ構図です。
It’s a deal. は「それで手を打ちます」という合意の文で、値切りの途中で言うと交渉がそこで終わります。
合意の文を早く出してしまうと、下げられたはずの数字が固まります。
expensive の扱いも決めておきます。
expensive は語義3個で、15語の中で最も少ない語でした。
意味の幅が狭いので誤解は生まれにくい一方で、直球で高いと言う語です。
That’s too expensive for me. のように for me を足すと、品物ではなく自分の予算の話になります。
同じ働きをするのが afford で、語義は5個でした。
I can’t afford it. は「私には払えません」で、値段そのものを否定していません。
相手ではなく自分を主語にすると、断りも申し出も角が取れます。
最後に refund と reduce の線引きです。
refund は語義5個で、買ったあとに金を返してもらう話です。
reduce は語義6個で、Can you reduce the price? は硬いものの通じます。
買う前が reduce と discount、買ったあとが refund と覚えると混ざりません。
値切る英語についてよくある質問
値切る英語でhaggleを使うのは失礼ですか?
場所によります。
Cambridge Dictionary の haggle の定義には usually by arguing という条件が付いていて、言い合いを前提にした語です。
同じ辞書の例文が「It’s traditional that you haggle over the price of things in the market」なので、市場では習わしとして扱われています。
一方で、値札が最終価格として法で定義されている英国の店頭では、この語は場面から浮きます。
値切る英語はどの国で使えますか?
国ではなく売り場で決まります。
英国の The Price Marking Order 2004 は、量り売りと広告を表示義務の例外としています。
米シアトルの Pike Place Market の2025/2026年版規約は、露店の値札の表示を encouraged と書いていて義務にしていません。
値札が義務でない売り場が、値切る英語の出番です。
値切る英語で金額を自分から言ってもいいですか?
個人売買では普通のやり方です。
Would you consider forty? のように数字だけを置き、相手の判断を待ちます。
市場では、相手が Make me an offer. と振ってくるまで数字を出さないほうが動きます。
値切る英語が断られたら何と言えばいいですか?
OK, I’ll think about it. Thank you. で離れます。
The price is fixed. と言われた売り場は、値段が動かない前提で作られています。
その場合は、免税や学割のように店の側にすでにある引き下げを探すほうが早く総額が下がります。
覚えて帰る1文|値切る英語を決めるのはhaggleではなく手順
この記事でいちばん使う1文は、最初に置いた Can you do any better? です。
15語を引いて180個の語義を数えた結果も、同じ方向を指していました。
語義が多いのは cheap の26個、offer の25個、sale の21個、deal の15個、discount の14個です。
どれも売り手の側から飛んでくる語で、こちらから積極的に言う語ではありません。
逆に語義が少なかったのは expensive の3個、haggle の4個、afford と refund の5個です。
読むときは語義の多い語を相手から受け取り、言うときは語義の少ない語を選ぶ、という分担になります。
そのうえで、売り場の種類を3つに分けます。
値札が法で最終価格と定義されている売り場、税が後から乗る売り場、値札の表示が推奨でしかない売り場の3つです。
英国の店頭が1つ目、米国の小売が2つ目、市場の露店が3つ目にあたります。
3つ目の売り場でだけ、値切る英語は正面から通ります。
1つ目と2つ目では、値切る代わりに総額を確かめる文と、店側にすでにある引き下げを探す文を使います。
What’s the total with tax? と Is there any discount for students? の2文です。
日本で買うなら、5千円という線をまたぐかどうかが最も確実に総額を動かします。
この順番を頭に入れておけば、札の前で固まる時間がほとんど無くなります。
あわせて読みたい
交渉が終わって支払う段になったときの言い方は、お会計の英語でbillとcheckのどちらを言うかで辞書の語義を数えて国別に並べています。↓

参考文献
- haggle(Cambridge Dictionary 公式サイト)
- bargain(Cambridge Dictionary 公式サイト)
- negotiate(Cambridge Dictionary 公式サイト)
- discount(Cambridge Dictionary 公式サイト)
- knock off(Cambridge Dictionary 公式サイト)
- cheap(Cambridge Dictionary 公式サイト)
- offer(Cambridge Dictionary 公式サイト)
- deal(Cambridge Dictionary 公式サイト)
- expensive(Cambridge Dictionary 公式サイト)
- afford(Cambridge Dictionary 公式サイト)
- cash(Cambridge Dictionary 公式サイト)
- The Price Marking Order 2004(英国法令データベース legislation.gov.uk 公式サイト)
- Price Marking Order 2004: government guidance(英国政府 GOV.UK 公式サイト)
- Tax on shopping and services: Tax-free shopping(英国政府 GOV.UK 公式サイト)
- Revenue and Customs Brief 21 (2020): withdrawal of the VAT Retail Export Scheme and the tax-free shopping concession(英国政府 GOV.UK 公式サイト)
- No.6902 「総額表示」の義務付け(国税庁 公式サイト)
- 免税店とは|消費税免税店サイト(観光庁 公式サイト)
- The Rule on Unfair or Deceptive Fees: Frequently Asked Questions(米連邦取引委員会 FTC 公式サイト)
- 2025/2026 Daystall Rules & Regulations for the Pike Place Market(Pike Place Market Preservation and Development Authority 公式サイト)
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